山口県宇部市で発行されている「あかきの」第12号を拝受しました。いつもありがとうございます。
掌編連載の木澤千さんの「ひぐらし亭春秋」はいつも楽しみながら読ませていています。今号も「絶筆五首」と「したきりすずめ」の二編が掲載されています。これは第七期「九州文学」で発表されていたを改稿されたものです。どちらも小味の利いた作品です。掌編をきっかり書ける人は何を書かせてもうまいですよね。基本(起承転結)がしっかりしているから安心して読めます。この二つの作品の他に木澤さんは「占い」という短編を発表しています。佳品です。会社を定年して妻を亡くした「彼」が寂しさを忘れる為に近くを散歩していて公園で五歳の子供に出会うのです。子供の母親はパチンコに興じていて「じいちゃん」と「彼」に呼びかけて二人はお互いの孤独から交友がはじまるのですね。そして子供を彼は自分の家に連れて行くのですが、一方では母親は自分の子供が誘拐されたと警察に連絡し、そして誘拐犯に「彼」は仕立て上げられるのです。「彼」は新聞の占いをいつも読んでいて、その日までの出来事が不思議と当たるのですよね。それがこの作品のモチーフとなっています。まあ占いを「彼」が信じている訳でもないのですが、そういう事って日常よくありますよね。ここでは気の弱い「彼」という人間が丁寧に描かれていて感動しました。
他には手記で「私の老々介護」(野村英昭さん)に心惹かれました。「心に残る人」(高瀬啓子さん)の中にこういう人生訓めいたものが人の口で語られていましたのでメモしました。「人には三命がある。運命・職名・寿命。三命は逆らわずに受け入れることが大切」と。初めて目にしたのですが、なるほどと考えさせられました。