屋代彰子さんから単行本「異界の光景」をいただきました。作者は農学博士なんですね。専門は「栄養生理学」なんだそうです。著書にもそれらしいことに関係した内容が随所に散りばめられています。文章もしっかり鍛錬なさっているように思います。
この中に収められている「ある中廊下の家」は第七期「九州文学」に掲載されて「季刊文科」に転載された作品でした。読む応えがありましたので小生もよく覚えています。本人は随想として投稿されたのですが、勝手ながら小説として採用したものでした。小説として十分な要素を含んでいましたね。古式豊かな家を題材にして自分を含めた家族が、つまり人間が描かれています。自分史、あるいは私小説と言っても過言ではないと思います。「家史」というのがあるとするならばそう言えるかも? いずれにしても描かれているのはそこに住む人間ですから、小説として十分に通用すると思いましたね。これは秀作です。
表題にもなっている「異界の光景」もエッセイとして「長崎文学」に発表されていたようですが、掌編小説として読んでも見事な出来栄えです。小生も白内障の手術を受けた時、それに似た光景を思い起こさせてくれました。まさかそれが「異界の光景」だったかどうか分かりませんが、今にして思えばぴったりと当てはまる言葉のような気がします。作者の感覚の鋭さに感服いたしました。
この他、一篇一篇の作品には魂が込められていて、考えさせられます。何よりも文章に対する作者の並々ならぬ意気込みが感じられ、目からウロコが落ちました。
鳥影社刊(ハードカバー)定価:1800円+税