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「異界の光景」 - hazanyosi
2025/01/08 (Wed) 13:29:21
屋代彰子さんから単行本「異界の光景」をいただきました。作者は農学博士なんですね。専門は「栄養生理学」なんだそうです。著書にもそれらしいことに関係した内容が随所に散りばめられています。文章もしっかり鍛錬なさっているように思います。
この中に収められている「ある中廊下の家」は第七期「九州文学」に掲載されて「季刊文科」に転載された作品でした。読む応えがありましたので小生もよく覚えています。本人は随想として投稿されたのですが、勝手ながら小説として採用したものでした。小説として十分な要素を含んでいましたね。古式豊かな家を題材にして自分を含めた家族が、つまり人間が描かれています。自分史、あるいは私小説と言っても過言ではないと思います。「家史」というのがあるとするならばそう言えるかも? いずれにしても描かれているのはそこに住む人間ですから、小説として十分に通用すると思いましたね。これは秀作です。
表題にもなっている「異界の光景」もエッセイとして「長崎文学」に発表されていたようですが、掌編小説として読んでも見事な出来栄えです。小生も白内障の手術を受けた時、それに似た光景を思い起こさせてくれました。まさかそれが「異界の光景」だったかどうか分かりませんが、今にして思えばぴったりと当てはまる言葉のような気がします。作者の感覚の鋭さに感服いたしました。
この他、一篇一篇の作品には魂が込められていて、考えさせられます。何よりも文章に対する作者の並々ならぬ意気込みが感じられ、目からウロコが落ちました。 
  鳥影社刊(ハードカバー)定価:1800円+税
「龍舌蘭」拝受 - hazanyosi
2025/01/01 (Wed) 21:38:07
どなた様も明けましておめでとうございます。
終活の意味も込めて小生も今年から「年賀じまい」を始めました。淋しさはありますが、郵便料金も大幅な値上げになったし、これ以上世間には付き合っていられないというのが正直な気持ちです。ご理解下さい。
一部の方にはお知らせしていませんでしたのお詫びします。

さて「龍舌蘭」第213号は昨年暮れにいただいていたのですが、なかなか読む時間が他の事にとられて紹介するのが遅くなりました。申し訳ありません。
小説では「ぎょう鉄」(杉尾周美さん)が面白かったです。「ぎょう鉄」という言葉も初めて知りました。造船所の腕利きのいい職人さんのことのようですね。難しい技術を持った名工のことを言うのでしょうか。
バーナーとホースの水だけで鋼板を変形させることができる職人さんのことだって。そういえば製鐵所でも名工、いましたね。「高炉の神様」とか「宿老」とか言っていました。「現代の名工」として知人も国から表彰されてこともありましたが、あれはマユツバもので、以下略・・・。万人が認める本当に腕利きのいい職人さんは小説にもなりますよね。そうそう佐木隆三さんも「宿老 田中熊吉」を書いておりましたね。この「ぎょう鉄」も味わい深い作品でした。作者はまったく知らない人ですが、筆力はありますね。そんなに若い人でもなさそうですが、文章も冴えています。
詩では初日(後藤光治さん)がいいですね。「・・・願わくば 平和な世界の来たらんことを 不幸な人々には 一条の光が射すように 初日に向かって 掌を合わせよう」読みながら何回も頷かせられました。


「文芸思潮」 - hazanyosi
2024/12/30 (Mon) 20:57:05
「文芸思潮」第94号が発売になりました。今号は第17回銀華文学賞の発表が掲載されています。最優秀賞は佐賀の世波貴子さんの「緋の滴」に決ったようです。これまで余り名前は聞かない人でした。どこか同人誌に入っていられる方でしょうか? 歴史物です。作品全体に緊張感が漂っていますね。こういう隠れた人がいるとは驚きました。
知り合いの笠置英昭さん、有森信二さん、後藤克之さんはそれぞれ佳作、入選、残念ながらあと一歩でしたね。まだ次もありますので粘って頑張っていただきたいものです。応募数はひところのように多くはありませんが各氏選評によるとレベルアップしているとのことです。
「文芸思潮新人賞」も同時に行なわれていますが、こちらは最優秀賞も優秀賞もなしで、レベルの低下が評されています。
「文芸思潮現代詩賞」も最優秀賞なしでした。してみると「銀華文学賞」のレベルの高さが頷けますね。
 よしよし、テメエの齢も忘れてまだまだ頑張ろうという気持ちになります(笑)。
 皆さん、来年も己に目的を定めて、頑張りましょう。よろしくお願いいたします。
徒歩 - hazanyosi
2024/12/26 (Thu) 20:43:46
来年から車を手放し、免許証も返上することにしました。で、今日は久しぶりに街の中を歩いたのですが、なんと体の重い事! 体重はいつもと変らないのですが、自分の体ではないみたいに重く感じました。筋肉が衰えているのですね。こんなつもりではなかったのですが、改めて運動不足を痛切に感じました。お店のガラス戸に写った歩き方も老人そのもの。ああ、やばい! 車なしで生きていけるのか心配になってきました。でも、アクセルとブレーキの踏み間違いなんかの事故を思うと、ここで思いきらないと大変なことになりそうな気がして・・・。そんなことを思いながら山道に入ってカラス瓜を三個獲ってゆるりゆるりと帰りました。しんどいですな。歩くことがこんなにも重労働?とは思いもしなかったことでした。むかしは走っていたのですよ。コーチたちからは「歩くな、走れ」と怒鳴られていたのでしたが、こうも不様な自分になろうとは・・・情けない一日でしたがこれが今の自分と思えば生きるって辛いことですな!

佐賀の女流作家からいただいた無農薬レモンを絞ってお湯に少々の砂糖を加えて呑んだらシャキッと身体が引きしまった感じ。これ、うまいや!
「海」拝受 - hazanyosi
2024/12/21 (Sat) 10:33:48
「海」第100号をいただきました。評論、詩、短歌、俳句、小説、翻訳、エッセイと文芸同人誌のデパートみたいな誌です。どんなレベルのものなのか、小生には言えませんが、活発な文芸活動をなさっているということだけは言えると思います。小生が紹介した人も同人として認められ、作品を発表なさっています。
小説では「未成年」(井本元義さん)が面白かったです。彼の作品は説明と描写が多いですね。そう、会話が少ないのです。あってもアクセサリー的な存在で用いられているような気がしますが、もっと生きたものとして用いた方がいいのではないかと思いました。或る意味では会話も(大きな意味では)説明の一部ですよね。会話でその人物を説明する役目だってあると思うのです。かつて丸山健二文学賞というものがありました。丸山健二が一人で選考していたのですが、彼は会話が嫌いだったようですね。小生も一度応募したことがあるのですけど、徹底的に会話のない作品を選んでいました。会話があったらもう読む気がしないとさえ選評に書いていました。これはどうかな?まあ、そういうスタイルの人もあってもいいとは思いますが、本人の作品には結構会話が使われていましたよね、効果的に。説明文とか描写だけの作品もありますけど、その辺どうなのかな?最初の頃の小生の作品も久保田正文という文芸評論家からその辺のことを「迷っている」と書かれたことがありました。迷ったことはありませんでしたが、その辺の分量加減、やはり「効果的に」という以外にないような気がしますが、どんなものでしょうね。ちなみに「海」は合評会という名目のものは企画にないそうです。書きっぱなし、読みっぱなしということでしょうか。まあな・・・!
昨日、天気がよかったので久しぶりに自転車にのって遠賀川の土手を遡ったら、モモがパンパンに張っている。肉体って知らぬ間に衰えてゆくものなんですね。楽なはずの平坦なサイクリング道路がとんでもいない坂道に思えてなりませんでした。10年ほど前までは軽くペダルを踏んで遠乗りしていたのですが・・・。
「貴腐薔薇」拝受 - hazanyosi
2024/12/16 (Mon) 21:01:58
井本元義さんより小説集「貴腐薔薇」をいただきました。ありがとうございます。井本さんの著作はこれで10冊目になるのかな。うらやましいですな。
「貴腐薔薇」には表題作の他に文芸思潮「まほろば賞」を受賞された「トッカータとフーガ」他、「海」に発表された作品等が収録された良筆の作品集です。最初は外国文学風でとっつき難いのですが、読み進むうちに惹きつけられました。老いに抗いながら過去の恋、突き上げてくる激情と性への執着、破滅への衝動と闘い続ける、その終着点は美の極致か幻か・・・と帯には書かれていますが、このキャッチフレーズの方がなかなか魅力的です。「貴腐」というのは貴く腐る、という意味でしょうか? 小生にとっては初めて目にする言葉です。作者曰くところの「心優しきエゴイスト」的な内容の作品集です。読んでみる価値ありますね。小説の風景がフランス文学的で日本の純文学とは少しちがいます。
書肆侃々房刊 定価2000円⁺税
「季刊遠近」拝受 - hazanyosi
2024/11/30 (Sat) 21:34:15
「季刊遠近」第88号を拝受しました。発行所が東京に移ったようですね。逆井三三さんの編集後記、「核保有国は増え、核戦争の脅威は高まっている。核兵器の歴史を見る時、今さらながら人間の愚かしさに絶望的な気分になる。核抑止という理論がある。馬鹿かと思う。各家庭、団体がマシンガンやロケット砲で重武装しなければならないのと同じだ。現代社会で戦争するのは、民家に集団強盗に入るような7ものだ・・・」と歯切れのいい文章に思わず「そうだ」と賛同させられました。本当に人間って馬鹿ですね。テレビで報道されるウクライナとロシア、イスラエルとハマスの戦争の映像をみせられるたびにそう思います。何で平和に生きられないの、と。結局戦争とは何の関係もない一般国民が犠牲になるだけじゃないですかねえ。戦争屋がゼニ儲けの為に仕掛けているとしたら人間に生まれてきたことさえ悔やまれて仕方がありません。文学が戦争の抑止力になるのでしたらねえ・・・(悲)。
 作品では「蓬」(浅利勝照さん)が短編としてまとまっていますね。まんざら創作とは思えません。夫婦の在り方というか、人間の狡さ、賢さをごく自然に切り取って読ませます。「虚無の向こうに」(逆井三三さん)は力作ですね。テンポのいい語り口に惹きつけられます。東温寺公望などという人物が登場するなど世相を皮肉って書かれているがリアリティーはあります。奇想天外な面白さがこの方の持ち味でしょうか。連載の「思い出すまま(二)・長兄の短かった生涯」(難波田節子さん)は自分史でしょうね。苦しかった戦前戦後を背景に家族の生活の情況が丹念に書き込まれていて感動します。続編が待たされます。その他の作品もレベル以上の出来栄えで感心しました。合評会は毎月行われているようですね。しかも一作か二作を丹念に行うらしいですから厳しいのでしょうね。
「重野安繹伝」拝受 - hazanyosi
2024/11/23 (Sat) 13:55:07
鹿児島の藤民央(藤田小太郎)さんより単行本「重野安繹(やすつぐ)伝」をご恵贈いただきました。作者は「季刊遠近」の同人で、小生が氏の作品「南京皿山登り窯」に感想を送っていたことに対するお礼のようです。
「重野安繹伝」も「季刊遠近」に三年がかりで発表されたものを鳥影社から単行本で出版されたものです。
重野安繹は幕末から明治期に活躍した薩摩藩出身の漢学者、歴史家で、日本初の文学博士という経歴に焦点が当たりがちな人物ですが、この伝記小説では、流人時代を過ごした奄美大島での生活を丹念に描いている点が印象的です。長年、奄美の歴史と民族を研究された著者ならではの視点でしょうね。
重野は西郷隆盛や大久保利光とは刎頚の友だったそうで、西南戦争後は大久保の片腕として新政府の文教政策を担った人で、なかでは、西郷と時期の重なった奄美流人時代、調べをつくした作者によって、彼の人間的真価を見事に浮かび上がらせている(勝又浩評)歴史小説ですね。実際に重野と縁のある著者だそうで、筆致に一層の説得力を帯びているように思われます。また、著者の尊父も民俗学者であったとかで、小生も重野安繹なる人物はまったく知りませんでしたが、豊富な資料を駆使された重厚な作品となって勉強させられました。
人生思わぬところでいろんな人との出会いはあるものですね。尊父の著書「奄美染織史」(復刻版)も同時にご恵贈いただきました。
           

「全作家」拝受 - hazanyosi
2024/11/16 (Sat) 22:12:46
「全作家」短編小説の集い、をご恵贈いただきました。これまでの誌とは違って分厚くなっています。22巻だそうですが気付きませんでした。そんなに出ていたのですね。作品は19編掲載されています。知り合いの森田高志さも「独楽」という作品を発表しています。323ページの作品集で期待して手にしたのですが、校正もイマイチ。編集委員も編集方針が変っているみたいで、「全作家」らしくない誌になり下がったような感じがします。
 森田さんの「独楽」は浄水器のセールスマンをしている「私」が隣の未亡人に声をかけると買ってくれるということになり、急に親しくなって親密な関係にある寸前で未亡人は消えてしまうというハナシ。未亡人は浄瑠璃を習っていたらしく、未亡人の家でそのビデオを見せられ、浄瑠璃の語りが作品に書き込まれていて、読者はいささか退屈します。タイトルもその浄瑠璃から採られたものらしく、何が書きたいのかなあ・・と首をかしげてしまいました。前半はいいのですけどね。短編として推敲が足りない気がします。
 陽羅義光さんの「帰郷」はベテランらしく面白く仕上がっているのですが、巷に転がっているようなハナシを無理に作っているような気がしてリアリティーを感じませんでした。説明文の後に「そんなことはどうでもいい」という前文を打ち消すような言葉がもう何カ所も出てきて、どうでもいいなら書かないでほしいと読者は不愉快な気持ちになりますよね。
 今号に限っては辛辣かもしれませんが「全作家」らしい作品はありませんでした。しいていえば本間真琴さんの「夢の中の家」くらいなか?それも構成がイマイチって感じがします。妄言多謝。
「亜熱帯への召喚」読了 - hazanyosi
2024/11/12 (Tue) 21:34:03
五十嵐勉さんの「亜熱帯への召喚」(⒈Ⅱ.Ⅲ)を読みました。原稿用紙400字詰に換算して1800枚。すごい長編小説ですが読み応えがありました。
主人公は風間敦志は日本語の教師をしながら父親と生計を立てています。母親は失踪して心の中にしかいません。カンボジアから来たユアンという青年に日本語を教えてくれるように頼まれて接しているうちに彼の過去をしることになる。敦志の父親は戦争体験から精神的におかしくなり、そしてユアンも精神的におかしいことが判明し、その三人の内面描写がすごい。三人の視点で描かれていて、これは手法としては全体小説の形態をたどっており、野間宏さんらの手法が踏襲されていますね。人間とは何か? いかにして生きるべきか? これがどこまでも追及されていて、近年に類例のない感動を覚えました。小生は若い頃、五味川純平の「人間の条件」を読んで感動を覚えましたが、その作品に迫るほどの作品でした。まだまだ続きがあるそうですが、五十嵐さんがこれほどの作品を書けるとは正直思えませんでしたので驚いています。文学の「力」を感じましたね。著者にも感想を送ったところです。いやあ、参ったなー。相当に資料を正確に読み込んでいると思われます。「あんたたちの作品は文学ではないよ」と言われたようなショックを噛みしめています。う~む・・・・・