「海峡派」第162号を拝受しました。活発に前進していますね。ついこの前50周年記念号が出たばかりだと思っていたらもう51年目の第一号! 文芸同人誌は北九州市圏内にもたくさんあったのですが、残ったのは「海峡派」のみとなりました。それだけに期待する声も大きいですよね。
小説では「僕がミミズのなるまで」(瀬崎峰永さん)が面白かったですね。トリの解体作業をする独身男性を主人公にした悲哀を描いた作品ですが、深刻さは内部に納められて乾いたタッチでというか冷淡なタッチで読ませてくれました。トリの唐揚げは好きなんでけど、生きたトリを逆さ吊りにして首を刎ねて解体して商品に整えていく作業の想像はしていましたが、こうまで克明に描かれてはトリの唐揚げやモツ鍋を食べる時に思い出しそうで何か食欲がなくなりそうでした。小生も田舎にいる時(高校生の頃)にはトリを絞め殺して解体した経験がありますが、その頃はどこの家でも正月などにはそうやってご馳走にしていたのです。なので小生の見よう見まねで解体するコツを覚えたのでしたが、自分でするのと読むのとでは受け取り方も違いますね。それだけ歳を重ねたせいでしょうか?
この作者は九州芸術祭の作品に「盆トンボ」という作品を出していて印象に残ったのですが、「僕がミミズになれまで」もリアリティーを伴った好編ですね。ただ、ストーリーとしては面白いのですが、説得性が乏しいような気がしました。ミミズになりたいという気持ちは解らない訳ではありませんが、ミミズが果たして人間が羨むような平和で幸福な生活をしているでしょうか? そのミミズになった「僕」もトリから食べられる運命になるという皮肉は納得できるとしても今のトリは果たしてミミズを食べることができるのかな? むかしは確かにそうでした。トリを庭に放せば取り合いしてミミズを食べていました。イナゴやコオロギも食べていましたね。猫だってネズミを捕らえては生きたまま食べていましたが、今の猫はネズミを見たら逃げて行くそうですね。だからトリも・・・と考えるのは疑い過ぎでしょうか? まあ、そういう理屈を抜きにすれば「僕がネズミになるまで」は面白い作品であることは間違いないですね。この作者は成長株ですよ。まだまだ良い作品が書けるような予感を持ちました。
詩では「宇宙を構成する音と躍動」(若窪美恵さん)のスケールの大きさに度肝を抜かれました。
この他、海峡派創刊五十周年記念祝賀会(川下哲男さん)の臨場感のあるレポートに感心しました。