「絵合せ」9号が発行されました。着実に一歩一歩前進しているって感じですね。年3回発行ですから3年を経過したことになります。
小説では「雨の休日」(後藤克之さん)がいいですね。読みながらふと丹羽文雄の作品を思い出しました。小生は丹羽文雄の「小説作法」からの出発で、丹羽文雄の文章をまる覚えしたことでしたので、その脈をすごく好意的に感じました。
主人公は由紀子という独身の失職(クビ)した女性で、父母の他に叔母(母の姉)が同居しています。父母は知り合いの娘の結婚式に出ていて、由紀子は叔母(この人も失職して居候している)から父母のなれそめや自分との関係などを聞かされ、「がさつで図々しく鈍感とばかり思っていた叔母がまったく別の繊細で崩れやすい透明な存在なものに見えて」きて「叔母の歴史は由紀子のそれよりもはるかに重いもの」であったことを知らされる。そこに二人の新たな関係がうまれ、いつの間にか由紀子の鬱積が消えて晴れやかな気持ちになるという、その心理描写が繊細なタッチで描かれていて、これまでに感じなかった作者の才能を見せつけられたような気持ちになりました。好編です。きっと話題になることでしょう。全国同人雑誌「まほろば賞候補」にノミネートされても遜色ない作品だと思います。
「SUNNY](蓮実夏さん)は若い方の作品でしょうね、新鮮な雰囲気は全体から感じますが、書き込み不足ですね。もっと深く人間を見つめることが要求されます。ドギツイ言い方をすれば、作者はもっと主人公を苛めなければ人間の内部は見えてきませんよね。そう、中途半端で終っていますよ。「だからどうした?」という疑問を解かなければ作品は成立しませんよね。おじさん(お母さんの愛人?)の正体が宙に浮いたままです。
随筆の「カラスという鳥」は素直に面白かったです。なぜかカラスには人間いい印象は持ちませんよね。ですから、カラスを困らせた作品もあっていいと思いますがどうなんでしょう?