「季刊遠近」第91号を拝受しました。同人は14人ですがレベルが高い誌ですね。毎号それを感じます。
今号は「パリの石畳に影ふたつ」(久遠十子さん)が秀逸です。この作者の作品は初めて読むのですが新しく同人になった方でしょうか。他でも目にしてことはありません。感覚的な文章が良いですね。父と母を娘(私)の視点で描いたもので、そんなに斬新な作品ではありませんが読ませます。父が会社を退職して娘とパリに旅行するのですが、娘の立場からすると、本当は父と行きたくはないのでしたが、母のことづけ(離婚)を胸に秘めて行く訳なんです。旅の途中でいつ言い出そうかと娘は苦渋していたが、あるチャンスを捉えてついに言い出す。離婚の理由は父の浮気。父は気が弱いくせに異性に関しては積極的らしく、そのせいで母は精神的な治療を受け続けているのです。父は母からの離婚届けを耳にして固まってしまうのですが、娘の「離婚しても私は娘」と呟きを聞いて「そうか」と項垂れまます。娘と母もそんなに仲がいいわけではないのです。娘には「お父さんは、愛し方を知らない人」という母の言葉がよみがえります。母は泣いているのではなく「まるで諦めと未練を同じ器に注ぎ込んだような声」が娘の心境をよく表しています。父と母と娘の間隔の描き方が絶妙ですね。久し振りに同人誌で素晴らしい作品に出会いました。各同人誌評でも好評を受けると思います。
「サンゾー書評」は相変わらず面白いですね。この方はもともと「毒舌」という印象がありましたが、ひところの「毒舌」は影を潜めましたね。歯切れが悪くなっています。「蛇の生殺し」のようで、もう少し切り込んでくれた方がいいように思います。寄贈される同人誌をいちいち読むのも大変なことですよね。時間もかかるし・・・。
盟友・難波田節子さんは連載物「思い出すま(4)」を書いています。自叙伝ですね。だからでしょうか、切れ味がイマイチって感じですね。自叙伝じゃなくて私小説にしたらよかったのでは? 創りが欲しいと思いました。